ENTERTAINMENT

男性と女性の恋愛の価値観の違いとは??? ある男女の11年にわたる愛と友情の軌跡を描く、『恋人たちの予感』。

Text & Illustration by Yoshimi Yoshimoto (Design Studio Paperweight)

2015.09.10

『恋人たちの予感(原題「When Harry Met Sally …」)』が最初に公開された頃、1980年代後半の日本はバブル期の初め頃で世の中全体が浮き足だっていたが、映画そのものはジャズを粋にあしらいこそすれ、不変的な男女の友情と愛情を描いた映画で、今観ても古びることなく、男と女が何故すれ違うのかの答が明快にある。

現在リーザ・ウィザースプーンやケイト・ハドソン、その他後進コメディエンヌ達にすっかりお株を奪われた感のあるメグ・ライアンだが、彼女が眩しく光り輝き始めるきっかけとなった映画だ。

この映画の製作開始当時、ハリー役のビリークリスタルの方が断然売れていて、1986年トム・クルーズの『トップガン』で注目され始めた程度のメグ・ライアン(当時27才)は、大抜擢扱いでサリー役に採用された。しかしそのチャンスを見事にものにした彼女の、この映画におけるコミカルで表情豊かな演技は観客を魅了し、ゴールデングローブ賞にノミネートされた。

ビリー・クリスタルは、伝説のTV番組『サタデー・ナイト・ライブ』等に出演した人気絶頂のコメディアンで個性派の俳優で一時はアカデミー賞の司会でもお馴染みであった。彼の名はアメリカにおいて、ハウスホールド・ネーム(誰もが知っている名前)として定着していた。『恋人たちの予感』でも独特の機関銃ジョークや得意の早口台詞回しが存分に楽しめる。まだ毒のある演技を披露していたように思う。

余談だが、彼は後々ハートフルコメディやラブロマンスばかりを出演作に選び過ぎて観客に飽きられてしまった節もあり、勢いを失ってしまったとぼくには思える。『恋人たちの予感』の大ヒットは彼にとって、良くも悪くも転機となってしまった作品では無いか。同じく『サタデー・ナイト・ライブ』出身のエディ・マーフィーやジム・キャリー達がぶつかった壁とおそらく同じだろう。皆器用なだけに立ち位置が難しい。こう考えるとビル・マーレーは自己プロデュースが驚くほど上手い。

さて、映画に話を戻す。『恋人達の予感』に話を戻す。監督は職人肌のロブ・ライナー。脚本は監督としてもすっかり有名なノーラ・エフロン。ロブとノーラはお互いの離婚経験をベースにじっくり話し合って、この映画を作ったといわれている。だからセリフがとてもリアルで自然に感じられるのだろうか。ロブがこの映画の翌年に監督したスティーブン・キングの『ミザリー』も良い。ストーカーを扱うテーマではクリント・イーストウッドの『恐怖のメロディ』が最高傑作ではあるが、ロブの『ミザリー』も中々健闘している。この頃ノリにノっていたのだなとも言える。ノーラ・エフロンは『恋人達の予感』のエッセンスと成功、自分のモチベーションを上手くミックスして、恋愛劇の大家となった。90年代から現在にかけて、彼女抜きではラブコメディ映画は語れない。

キャスティングやストーリーの面白さに加えて忘れてはいけないのは、『恋人たちの予感』の舞台であるニューヨークの風景だ。監督と脚本家共に出身者だから、「こう撮ればため息ものだ」と実に良く知っている。撮影監督であるバリー・ソネンフェルドによるメトロポリタン美術館の館内から見える紅葉は、役者が邪魔なほど美しい。セントラルパークの雪景色、ロックフェラープラザの巨大クリスマスツリー…、観客の誰もが「あの場所へ行ってみたい!」と思うような街の様子が生き生きと描かれている。勿論観光客が喜ぶスポットだけでは無く、シェイクスピア書店やシャパー・イメージ、クィーンズのバッティングセンター等、地元ニューヨーカーが日々利用している施設がたくさん出て来るのも好ましい。

サウンドトラックも又もう1人の主役だ。当時、まだ新人であったはずのハリ-・コニャックJr.の堂々とした天才ジャズプレーヤーぶりが画面を大いに彩り、フランク・シナトラやルイ・アームストロングの歌声が、華やかに大人の恋愛を盛り上げてくれている。"it had to be you""but not for me"…、スタンダードジャズはやはり素晴らしい。

『恋人たちの予感』を観た誰もが好み、忘れられなくなるシーンがいくつかある。

ハリーとサリーーの2人が初めて出会い、一緒にシカゴ~ニューヨーク間のドライブする途中、レストランにおいて、ハリ-がびっくりするほどサリーが細かくメニューに対し注文をつけるシーンがある。字幕でも上手くまとめていたが、英語の台詞をダイレクトに聞くと更に凄い。メグ・ライアンがビリー・クリスタルの影響を消化して、とってもキュートな演技を見せている。「パイは温めてね。アイスクリームは上にのせないで脇に添えて。出来たらバニラじゃなくて苺のアイスクリームがいいわ。無ければアイスクリームはやめて生クリームだけにして。本物じゃ無くて缶詰クリームだったら何も要らないわ…」。驚くウエイトレス役の間(ま)も上手いなと、何度か観ているぼくは気付く。

そしてカーネギー・デリカテッセンでランチを食べているシーン。これは様々にパロディされているが、大人気を博したTVドラマの『Sex and the City』の先駆けとも言えるだろう。ハリーの思い込みだらけのセックス観について腹を立てたサリーが、何と偽エクスタシーを店内に響き渡る声で表現してした後、呆れる周囲に対し何事も無かったようにコールスローを食べ出す。するとその様子を見ていた中年の女性が「彼女と同じものを」とメニューをオーダーするのだが、実はこの女性、ロブ・ライナー監督の母上なのだ。メグ・ライアンのアイデアから生まれた名シーンは多い。

さて、もう2つ。親友のジェスとマリ-(レイア姫の面影が全く無いほど老けたキャリー・フィッシャー)の結婚祝いを買いに「シャパー・イメージ」に行くハリーとサリー(「シャパーイメージ」はユニークなデザイン商品を扱う店) 。展示してある商品の中からカラオケセットを見つけたハリ-が突然マイクを持ち、歌い出す曲はかの有名なミュージカル『オクラホマ!』の中で歌われる"飾りの付いた四輪馬車"。アメリカ人の誰にも愛されるビリー・クリスタルの見せ場である。

2人の息の合った掛け合いが楽しいのは(どうやらアドリブらしい)郵便物のシーン。1通ずつ郵便物がちゃんと中に入ったかどうか確認しながらポストに投函するサリーを、傍らで苛々しながら見ているハリ-。とうとう彼女の手から残りの手紙を全部つかんで、一気に押し込んでしまう。短いシーンだが、性格の違いが軽妙に描かれるその普遍的な笑いには、思わず誰でも顔が緩むだろう。アメリカ映画が得意とする微笑ましいシンプルな可愛いい演出が実に味わい深い。夏が終わり、深まりゆく秋に相応しい映画の1つだ。

■ストーリー

1977年、シカゴ大学を卒業した21歳のサリー・オルブライト(メグ・ライアン)は、ニューヨークに向かう車での長旅を、親友アマンダの恋人ハリー・バーンズ(ビリー・クリスタル)と共に行く事になる。しかし18時間にも及ぶドライブの間、2人の会話は全く噛み合わない。「セックスが邪魔して男と女は友達になれない」と言い切るハリーと議論を交わすサリー。結局お互いに最悪の印象のまま、連絡先も交換せずに別れる。

5年後、ジャーナリストになったサリーは偶然空港でハリーと出会う。政治コンサルタントとなり、結婚が決まったという彼とシカゴまでの空の旅を共にするが、何事も無く又もやあっさりと別れる。更に5年後に再会した時、サリーは恋人と別れたばかりでハリ-は離婚が決まったという互いに最悪の状態。過去の"議論"を清算し、「男女間の友情」を成立させるハリーとサリー。ところが親しくなっていく間にお互い相手が気になり出す。しかし一度成立させた「友情」のために、今一歩前に踏み出せない。ハリーとサリーはこのまま「友情」を貫くのだろうか、それとも…。

 

恋人たちの予感 – allcinema

RECENT ENTRIES