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永住権を得るため形だけの結婚をしたフランス人とアメリカ人が、価値観の違いを衝突させながらも、いつしか恋に落ちていくロマンティック・コメディ『グリーン・カード』。

Text & Illustration by Yoshimi Yoshimoto (Design Studio Paperweight)

2015.11.10

 この映画が制作されたのは1990年、日本公開は1991年。何と24年前の事なんですね。女性のヘアスタイルやメイクにはさすがに時代を感じますが、物語は少しも色褪せていません。心地好い秋に相応しいナチュラルな映画です。

 ナチュラルといっても、ニューヨークが舞台であるため、日本に蔓延している「何が何でも不自然なほどに自然風味」というものではありません。適度にモダンで舞台設定に凝り方や趣味の良さがあちらこちらに現れています。映画ポスターやDVDジャケットはかなりダサ目ですが、全く内容を言い表わしていませんので、未見の方は御心配無く。いつかさせてくれるならデザインし直したい。

 まず舞台がいい。主人公ブロンティがどうしても住みたくなった古いアパートメントが素敵なのです。ビクトリア様式の温室や古風なエントランス、使い勝手の良さそうな白でまとめたキッチン、アンティークのバタフライテーブル。映画を観ている間、その空間にいる様な気分を味わえます。

 そしてそこに似つかわしくない男ジョージを演じているのが、この映画が初のアメリカ映画出演であったフランスの名優ジェラール・ドルデュー。厳ついその風貌は決して美男子とは言えないけれど、彼の魅力無くしてはこの映画は決して成立しないのです。何故なら脚本はピーター・ウィアー監督自らがドパルデューのために書いた物だから。「大人と幼児性、美と野獣性。相反する魂が心に同居するドパルデューのミステリアスな素質を念頭において書いた」と監督は語っています。

 オーストラリア人監督らしい観察眼、異邦人の視点でアメリカを捉えた演出が見事で、相反する価値観や対立する思想を解決するものは「愛だ」とシンプルに説き、アメリカが根本に持つ問題に対し、皮肉では無いストレートな描写が応援歌のようにも取れます。『いまを生きる』や『刑事ジョン・ブック/目撃者』に共通する監督のヒューマニズムの精神が、やはり『グリーンカード』にも溢れています。

 緑をこよなく愛する女性ブロンティは菜食主義者で、コーヒーもノンカフェイン、もちろん禁煙家。そんな彼女の生活に現れた異文化世界からの来訪者、ワイルドな男ジョージ。典型的なラテン、野卑なフランス人でエスプレッソや濃厚な料理が彼の好みです。何もかも合わない2人がお互いの目的を達成するために結婚ごっこをする間に、惹かれ合って行く過程が、監督の技巧により無理無く描かれています。

 木の葉からこぼれる光が眩しいセントラルパークで、ジョージと散歩をするブロンティは、ヘレン・カミンスキーの麦わら帽子に小花柄のブラウスを合わせていますが、そのこなれたラフな服装がとても印象的です。演じるアンディ・マクダウェルは、元ファッションモデルだからお洒落なのは当然としても、ぼくはこのシーンで彼女がとっても好きになりました。

 ジョージとブロンティはは散歩をしながら互いの過去を話します。それはグリーンカード習得のための面接に備えた暗記の時間であるはずが、楽しいデートのようにも見えます。面接審査のための会話でしかないはずなのにいつしか…。

 エンヤの透き徹るような挿入歌も魅力的なこの映画は、リンゴと野原の香りがするカモミールティーに似ています。安らぎをもたらしつつ凛とした気持ちにさせてくれる一杯のハーブティー、『グリーンカード』はそんな映画では無いでしょうか。

■ストーリー

 ニューヨークで暮らすブロンティ・パリッシュ(アンディ・マクドゥエル)は市公園課の職員で園芸家。緑化ボランティア団体"グリーンゲリラ"に所属する、緑を愛する独身女性。そんな彼女の望みは温室菜園付きアパートメントに住む事だった。しかしそこは協同組合経営のアパートメントで、入居の条件がとても厳しく、"既婚者"であるのがまず第1の条件だった。彼女は仕方無くその条件を満たすためにジョージ・フォレー(ジェラール・ドパルデュー)と婚姻関係を結んだ。ジョージも又、観光ビザが切れ、アメリカの永住許可書=グリーンカードを得るために"アメリカ国籍の妻"を必要としていた。フランス人の彼がグリーンカードを得る最も早い手段がアメリカ人との結婚だったのだ。かくしてそれぞれの事情からブロンティとジョージは、偽装結婚をして結婚証明書を無事手に入れた。しかし、INS(入国管理局)はそう甘くはなかった。

 ある日2人のINS調査員がブロンティのアパートメントに突然訪れた。その場はジョージを呼び出して何とか切り抜けたものの、数カ月後に本格的な面接審査が行われる事になった。偽装結婚がバレると、ジョージは本国へ強制送還、ブロンティはアパートメントを引き払わなければならない事態となってしまう。何とか審査を乗り切るため、2人は一緒にブロンティのアパートで暮らし、口裏合わせをする事になった。ブロンティはしぶしぶジョージの同居を数カ月許したが…。

 しかしブロンティの前途は多難続き。偽装結婚は秘密なので、女友達やボーイフレンド、両親の前ではジョージとの本当の関係は当然言えず、ただの友達と苦し紛れの説明になっていた。そしてアパートの経営組合とINSの前では愛し合う夫婦を演じていたのだった。目的のために同居したとはいえ、フランス人ジョージはずぼらでガサツな無骨者で、やることなすことブロンティにとっては気に入らない事ばかりだった。

 そんなある日、ブロンティは親友ローレン(ビビ・ニューワース)から彼女の両親が催すパーティーに招かれた。その席でブロンティは、自分が熱心に活動しているボランティアのために庭木寄付をローレンの母親に依頼するつもりだった。スラムに寄付の庭木を植えて、貧しい子供達にも希望を少しでも与えられる様にとお願いしようとした矢先、招かれざる客ジョージが来てしまう。ローレンが誘ってしまったのだった。しかし、そこでのジョージの思わぬ活躍が興を然して、ローレンの母親から色良い返事を貰えそうな気配を感じるブロンティだった…。
 ジョージの意外な繊細さや優しさに気付き始めたブロンティ。生活信条、習慣、趣味、何一つとっても共通点の全く無い2人。紙切れだけの偽りの結婚が結ぶに過ぎない2人。INSの面接のためだけにお互いを知る必要があっただけだったが、

 2人の心にはいつしか本物の何かが生まれつつあった…。そしていよいよ面接審査当日。無事グリーンカードを手に出来るだろうか。

https://youtu.be/JkB9NBoHrLw

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