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階級間の緊張と美しい自然。見応えある文芸佳作。ジェイムズ・アイヴォリィ監督による映画、『ハワーズ・エンド』

Text & Illustration by Yoshimi Yoshimoto (Design Studio Paperweight)

2019.03.11

日暮れの草はらを衣擦れの音をさせながら、ゆっくりと歩を進めるドレスの裾だけが白く浮き上る。忘れがたいシーンをオープニングに持つ『ハワーズ・エンド』はジェイムズ・アイヴォリィ監督が映画化した『眺めのいい部屋』『モーリス』と共にE.Mフォースター3部作の1つ。サウンドトラックは休日のお茶を楽しむひとときに欠かせない。花々が咲き乱れ、やがて散る春にとてもよく似合う映画だ。

見どころをあげると、エドワーディアンと呼ばれる美しい衣装や華やかな貴族文化、豪華な邸宅や家具調度、優雅な庭でのティータイム、月夜のブルーベル群集地と数々あるのだが、やはり主人公とも言える"ハワーズエンド"に止めをさす。

決して豪華でない素朴な造り、可憐な花々に彩られた色褪せたレンガの壁や、古びた木枠の窓。決して新築出来無い家、時間と愛情だけが造り出せる素暗しい家なのだ。後は何といってもアイヴォリイ作品に欠かせない、演技派ぞろいの俳優陣。あまり豪華過ぎると不協和音にもなり兼ねないものだが、美しい交響曲を奏でるオーケストラの様に、全てが調和し響き合う映画に仕上がっている。

<ONLY CONNECT> (ただ結び付ける事さえすれば)、フォースターの原作『ハワーズエンド邸』の扉に書かれた言葉の様に、意見を異にしていても、階級や立場が違っても、きっかけさえ有れば、人は変化したり、愛し合う事が出来る。そんな理想の世界を求める姿勢が持つ心の美しさこそが、時代を越え人々に深い感銘を与えるのだろう。

STORY
20世紀初頭のイギリス。ウィルコックス家所有のハワーズエンド邸は、レンガの外壁に藤がつたう趣きのある別荘だった。旅先で交流のあったシュレーゲル家の次女ヘレン(ヘレナ・ボナム=カーター)を、この地に招き、客人としてもてなしていた。保守的な資産家のウィルコックス家と異なり、シュレーゲル家は亡父の意向で、哲学や芸術を愛し、困習に囚われない進歩的な、中産階級の一家だった。ことに3人姉弟の次女ヘレンは、感情家で理想主義な女性だった。ウィルコックス家の次男ポールと、一目で恋に落ちたヘレンは、その喜びを早々姉に宛てた手紙に綴った。「婚約しました。」しかし若い2人の軽率な恋は、現実の前にあえなく幕を下し、その周知の顛末にわだかまりだけが残ったのだった。

ロンドンに戻って数ヶ月、いつもの静かな生活にヘレンの失恋の痛手もやわらぎつつある。そんな雨の日、講演会から帰宅した彼女を出向かえたのは、姉マーガレット(エマ・トンプソン)の心配そうな面持ちだった。悪い事にウィルコックス家が向いに越してきたのである。長男リチャード(ジェイムズ・ウィルビィ)の結婚のためで、偶然の事ではあるが喜べないめぐり合せだった。「私は平気よ。」と強がりを言いながら窓の外をのぞいたヘレンは、雨の中こちらを見つめる男性に気づいた。彼、レナ-ド・バスト(サミュエル・ウエスト)はヘレンが彼の傘をまちがえて持ち帰ったために、やむなく後を追って来たのだった。彼は繊細で知識欲に燃えた若者だが、たった一本のほつれた傘にさえ不自由する、貧しい労働者階級の男性だった。お詫びにと姉妹はお茶をすすめるが、彼には辞退し、粗末なアパートに帰る他なかった。そこに待つのは知性とは程遠い女性ジャッキーだった。

数日後、ドイツへと旅立ったヘレンをよそに、マーガレットはウィルコックス家を訪れた。ウィルコックス夫人ルース(ヴァネッサ・レッドグレイヴ)はマーガレットを歓待した。ルースは仕事の忙しい夫ヘンリー(アンソニー・ホプキンス)や子供達から置き去りにされたように寂しく日々を送っていたのだった。互いをかけがえのない友人と呼ぶのに時間はそうかからなかった。やがてルースは、自分の家族以上に気持ちの通じるマーガレットに、大切な家ハワーズエンドをどうしても見せたいと思いだした。何故なら彼女にとってその家は、思い出の生家であり、兄の形見であり、あらゆる心のより所となっている特別の地だったからだ。しかしその願いはかなう事なくルースは病で世を去ってしまった。"ハワーズエンドをマーガレットに譲る"という遺言を残して…。この遺書が新たな波紋を呼び、やがて結びつくはずのなかった人々を引きよせ、様々な愛憎と複雑な人間模様をおりなしてゆくのだった…。

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