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60年代のイギリスに実在した海賊ラジオ局とロックを規制しようとする政府の攻防を描いた痛快青春音楽ムービー『パイレーツロック』。

Text & Illustration by Yoshimi Yoshimoto (Design Studio Paperweight)

2016.02.10

"1966年、ドラッグと煙草喫煙で高校を退学になったカールが北海に浮かぶ船にやってくる。更正のため、母親の旧友であり、名付け親のクエンティンに預けられたのだ。この船は海中に浮かぶ文字通りの海賊ラジオ局「ラジオ・ロック」で、クエンティンはその経営者。1日45分しかロックやポップスを流さないBBCラジオに対し、24時間いつでもゴキゲンな音楽を流し続けるこのラジオ局は、若者に圧倒的な支持を受けていた。DJ達は筋金入りのロック魂の持ち主で、当時は放送禁止のFワード「F●●K」を電波に乗せたり、ファンの女の子達を「ラジオ・ロック」船上に呼び、性的な遊び等を満喫しながら愉快な日々を送っていた。カールはそんな人生の先輩達に引っ張り回されながら、いつしか彼等の自由・気儘な生活に溶け込んでゆく。しかしその一方、政府はこの風紀を乱す海賊ラジオ局を潰そうと画策しているのだった…"

映画の舞台は1960年代後半のイギリス。ビートルズやローリング・ストーンズ、ザ・フー、ヤードバーズ等が人気を博し、アメリカ生まれだがイギリスで更にシェイプされたロックが、世界中に影響を与え全盛期を迎えていた、所謂ブリティッシュ・インヴェイジョンの時代だ。映画はフィクションだが、大部分は実話がベースとなっている。

実際にイギリス政府はクラシック音楽やジャズ音楽を推奨し、国内唯一の国営ラジオ局BBCでは、1日に45分しかロック音楽が流れなかった時代でもあった。音楽関係の組合が強く、「レコードをかけると演奏家達の仕事が減る」との理由もあり、ビートルズでさえレコードでは無く、生演奏を余儀なくされた(これはこれで後に貴重な音源となるのだが…)。政府のやり方に反旗を翻した人々の中には様々な海賊放送を運営する強者もいた。

当時の事情はピーター・バラカン氏の話やコラムで知ってはいたが、映像でほろ苦く描かれると、とりわけラジオ好きなぼく等には特別な思いでもって伝わって来る。音楽評論家松村"ストロベリー・フィールズ・フォーエバー"雄策氏並みのノスタルジーがそこにあると言えば言い過ぎか。ちなみにロッキングオンの初単行本『rockin’on BOOKS vol.1 THE BEATLES 』を読んだばかりでこの映画を観たもんだから、何だかどっぷりと良き時代の雰囲気に浸かってしまったのだ。ザ・フー、キンクス、ローリング・ストーンズ、マーサ&ザ・ヴァンデラス、プロコル・ハルム、ビーチ・ボーイズ、ダスティ・スプリングフィールド…、サウンドトラックが素晴らしい。

 

領海外に停泊した船が「海賊放送」という洒落もくだらなさ過ぎて良いし、当時の貴重なシングル音源をきちんと使用して流れる極上ポップ・ミュージックが素晴らしい。音楽を中心に据えた映画は山ほどあるが、近年では感動を生もうとする余りわざとらしい仕掛けを全面に押し出し過ぎて、やや説教臭いものが多い。しかしこの映画の抜け感はひと味違う。群像劇+小粋なコメディが得意なワーキング・タイトル制作、監督・脚本は『フォー・ウェディング』(脚本)『ノッティングヒルの恋人』(脚本)『ブリジット・ジョーンズの日記』(脚本)『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月』(脚本)『ラブ・アクチュアリー』(監督兼脚本)『アバウト・タイム〜愛おしい時間について〜』(監督兼脚本)の、名匠リチャード・カーティス。
これはある意味、「心温まるが、くだらない洒落も満載なので、どうかマニアックにならず、楽にお楽しみください」というお墨付きのようなものだ。直球勝負とばかりに押しの強さが目立つ、ハリウッド映画とは違った魅力を湛える作品群は、ぼく達日本人にとって感情移入しやすいのではないだろうか。そしてウィットに富み上品な笑いを誘う手法等は、さすが、かの有名な"Mr.ビーン"を生み出し、イギリス映画界きっての名脚本家と言われるだけあって、ユーモアのセンスは抜群だなと感じる。

監督のおふざけはエンディングの"Lets’ Dance"で極まる(1980年代のデヴィッド・ボウイの代表曲)。1960年代の音楽の時代考証より気分が大事なんだな。音楽を純粋に愛しながらも、普遍的な男女の問題も大事、そんな人のための映画があってもいいと思う。切ない片思い、叶わぬ思い、愛する人への不安や戸惑い、愛を探し求める気持ち、友情etc…、それらが音楽を更に魅力的にするのだ。

それぞれ曲者の出演者にあって、思わず吹き出したフィリップ・シーモア・ホフマンが最高だ。シェークスピアの国の舞台、つまり演技の本場で修行を積んできた役者達に囲まれても、豊かで厚みのある表現力は負けていない。時にはトム・クルーズの敵役、そしてカポーティからDJカウントまでをこなすのは器用さだけでは無く、どれもさすが、嫌味ったらしくならない。この才能豊かな俳優は惜しくも2014年2月に亡くなってしまった。

この映画を観ているといろんな思いがこみ上げてくる。『THE BOAT THAT ROCKED / パイレーツロック』の主人公、青年カールでは無いにせよ、誰にでもかつて、特別で、自由気侭で濃密な時間は存在したのだ。それを胸に抱いて、年をとっても強く生きていける、そんなメッセージも込められているような気がする。

『THE BOAT THAT ROCKED / パイレーツロック』Official Trailer

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