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心安らぐ名作映画『プロヴァンス物語 マルセルの夏』。

Text & Illustration by Yoshimi Yoshimoto (Design Studio Paperweight)

2016.05.10

最近のぼくは夏の事ばかり考えている。もはや晩春には飽きた。梅雨も要らない。子供の頃からそうだった。工夫して、何とか雨の多い5月や6月を遊ぼうとするのだが、やはり雨は退屈だ。つまらない。本格的な夏が待ち遠しくて仕方が無い。そんな気持ちをもっとワクワクさせてくれる映画『プロヴァンス物語 マルセルの夏』が大好きだ。

『わんぱく戦争』等子供を撮らせたら当代随一の、名匠イヴ・ロべール監督の『プロヴァンス物語 マルセルの夏』を知らない人は可哀想だなとさえ思う程に、観た後に爽やかな清涼感と切ないノスタルジーを残す。ウラディミール・コスマのサウンドトラックも、忘れられない夏の余韻を与えてくれるはずだ。

子供の頃、誰もが永遠に続けば良いと願っていたのが、夏休みだ。セミの声、水遊びの歓声、縁側で食べたスイカの甘さ。家族で行った高原の葉擦れの音や、陽の落ちる海の色…、思い出す夏のイメージは、人それぞれにある事だろう。この映画『プロヴァンス物語 マルセルの夏』は、懐しい子供の頃の夏休みへ、もう一度連れて行ってくれる、そんな力を持った作品だ。

原作はフランスの国民的作家マルセル・パニョルが老境に差し掛かってから書き上げた回想録『少年時代の思い出』だ。その第一章「パパの栄光/La Gloire de Mon pere」をイヴ・ロベール監督が忠実に、そして見事に映画化したのが本作『プロヴァンス物語 マルセルの夏』となっている。又同様に回想録の第二章「ママのお城/La ChaTeau de Ma Mere」も『プロヴァンス物語 マルセルのお城』として映画化されている。これは是非セットで観るべきだ。

監督が25年間熱望し続けた末の映画化だけあり、パニョル作品への溢れる愛情が、細やかに表現されている。プロヴァンスの美しい風景、夕陽を受けバラ色に照り映える別荘。庭には大きなテーブルが置かれ、心のこもった手作りの食事が所狭しと並べられている。 団欒の内に陽が落ちると、頭上に延びた広葉樹の枝に暖かな色のランプが燈される。兄弟は母手製の夏服に身を包んで、自然の中で遊び回り、父親は威厳を失う事無く猟の獲物、"バルタヴェル"を持ち帰る。そんな理想のヴァカンスが鮮やかに描かれている。

観る者に、まるでそこに一緒に出かけているかの様な錯覚を起こさせる臨場感が素晴らしい。そしてマルセルの世界から、やがて自らの子供時代へと想いは帰ってゆく。その時、もう一度、あの日草むらを走って踏みしだいた夏の匂いを感じる事が出来るだろう。

STORY

20世紀間近なフランス、エトワル連山の麓オーバーニュ。その地でマルセルは愛情深い両親のもとに生まれた。教師を務める父、ジョゼフ(フィリップ・コーベール)がお針子だった美しい母、オーギュスティーヌ(ナタリー・ルーセル)を見初めての結婚であった。

勤勉な父は瞬く間に昇進し、マルセイユ近郊のサン・ルーヘ、そして更にマルセイユ一大きな小学校へと転勤が決まった。両親と弟ポール、母の姉ローズおばさんとその夫ジュールおじさん。陽気で楽しい人々に囲まれマルセルはすくすくと成長していった。母オーギュスティーヌは丈夫な体とは言えなかったが、更に娘を1人生み、一家は幸福な日々を送っていた。

そんなマルセル(ジュリアン・シアマーカ)9才の時の夏休みの事。一家は揃ってプロヴァンスへと出かける事になった。体の弱い母を気遣って、父がジュールおじさんと共同で別荘を借りたのである。そこはオーバーニュからエクスへと続く丘陵地のそばで、風光明媚な土地であった。

小さな村を抜けると、手付かずの自然が優しく出迎えてくれる。気持ちのいい田舎でのヴァカンスである。辺り一帯に響くセミの声、頭上の青空には円を描く大きな鳥。その地でマルセルを待っていたのは、様々な冒険や、生涯忘れる事の無い大切な思い出、土地の少年リリとの出会いと、かけがいのない友情。

やがてその夏が終りを告げる頃、深みを増した父への愛情と共に、少し大人になった自分をマルセルは発見するのだった…。

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