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フランスのイル・ド・レの海岸で夏のバカンス、様々な人間模様を描く瑞々しい群像ドラマ。映画『夫たち、妻たち、恋人たち (Les Maris, les femmes, les amants)』

Text & Illustration by Yoshimi Yoshimoto (Design Studio Paperweight)

2016.08.10

立秋を迎えたというのに何という暑さでしょう!!しかし残暑が厳しいとは言え、にぎやかで楽しい夏は徐々に過ぎ行き、秋の気配がやがて街を覆い始め、静かな日常が訪れます…。そんな時期にぴったりな、ノスタルジックな記憶や様々な恋を呼び起こすパスカル・トマ監督の名作『夫たち、妻たち、恋人たち』をご紹介致します。誰しもが持つ遠い夏の思い出を重ねながら、是非ご覧頂きたい映画です。

パリに住む人々にとって、最大の楽しみとも言えるのは夏のバカンスです。 日常のゴタゴタから遠く離れて、自由な時間を楽しむのです。そんなバカンスに起きる小さな事件をスケッチブックに描き写す様にこの映画は進んで行きます。眩しい陽光、人生に疲れた夫達、青春の入口にいる子供達、美しい海辺や街並、束の間の休息を心置きなく味わう妻達…、様々な人生観や家庭観や自然が丁寧に編み込まれて生まれる見事な映像美とリズミカルな音楽が絶妙なバランスを見せています。

「この映画を生き生きとしたもの、楽しいものとして捉えて貰えれば、とても嬉しい」

「この映画が生まれたのは1987年の5月の事でした。私には10日間の休みがありました。季節は春から夏にかけての、とても気持ちの良い時期で、天気にも恵まれていました。私は1冊のノートとひと箱の鉛筆を買い、脚本を書き始めました…。作品自体を縛り付けたりせず、自由に発展出来る様に解放して演出を行いました。スタッフと一緒に楽しんで撮影して行く事を心掛けました。映画の本質とは、幸福の一瞬、人生が魔法を使うあの一瞬を、とらえる事が素晴らしい。登場人物は傍役も含めて約60人も出てきます! そのうち20人は同等に描かれます。ポートレートの様に、普遍的な人生模様を描き出したかったのです。オープニングの15分間で登場人物の動きを見せ、人々の生活へと入り込んで行く印象を作り、更に見終わった時、観客が十分に笑い、晴れ晴れとして、幸福感にひたるチャンスを提供出来るような映画を望んでいました。バカンスとは、楽しい記憶とノスタルジーの混じりあった想い出を残すという事を忘れてはならないと思うのです…」

と語る監督パスカル・トマ。

瑞々しい語り口を持つこの監督、1970年代のデビュー作品「上級生」から今日まで、パリの人々に愛されてきました。青春に甘さや透明感を見事に綴った『上級生』はこれぞ「シネマ・ジューヌ(青春映画)!」と文芸評論やメディアから絶賛を受けた程なのです。パリに生きる人々の人生模様と人間讃歌を描き切った『夫たち妻たち恋人たち』は17年間温め続けた作品で、監督の念願作として、繊細さ、滑稽さ、道化じみていますが心暖まるポートレートとして生き生きと語られますが、そのリアルさは友人達を長く観察してきた結果でもあったそうです。監督の仲の良い人物達をモチーフにした一遍の詩ともいえます。

甘酸っぱい夏の記憶を呼び起こし、不思議な懐かしさが胸一杯に広がって行く人間賛歌を夏の終わりにどうぞ。

STORY

パリの夏、バカンスの季節。パリの人々は暑い夏を様々な避暑地で過ごす。しかし、最近のバカンス事情はちょっと変わっている様だ。バカンスに行くのは夫や子供達ばかりで、妻達はパリに残って束の間独身貴族を装い遊ぶ。かつての男達がそうであった様に…。

ドラもそんな人妻の1人で、夫というよりも今や仲の良い友達位の存在になったマルタンと、2人の息子、思春期の真ん中にいるクレマン、そして友人オデットの2人の娘(悪魔の様に騒がしい)のグループをイル・ド・レ行きの列車に押し込んだ。ドラ自身はバカンスの間、4人の女友達バルビー、キキ、クレール、マリー=フランソワーズ達と一緒にパリでゆっくり過ごそうと思っていた…。

バカンス地イル・ド・レの美しい浜辺ではバカンスに来た夫達が高校生の様にグループとなり行動していた。もちろん、本当の高校生の様な未来は彼等にはもはや無い。人生に疲れて、溜ったうっぷんを晴らそうともやもやと悩む男ばかりだ。その中の1人、世界で1番の不幸者を名乗るブリュノは自分の惨めさを人に見せびらかす妙な癖を持っていたが、その大袈裟なジェスチャーは不思議と仲間を和ませていた。その他、ただ1人美しい妻を伴ってきたジャック、穏やかな好人物であるが妻に離縁されてしまいバカンスの子供達の世話を押し付けられたミシェル、編集者であり詩人でありスタンダール信奉者であるトカニエ(人生とはいかなるものか、と幸福な一瞬を集める事が生き甲斐)、そしてドラの夫マルタンがいた。マルタンはバカンスの間、日々忙殺される仕事から逃げる事と息子クレマンにガールフレンドを見つける事に懸命になっていた。それが全くの見当外れとは知らずに…。

バカンスに連れてこられたそれぞれの子供達は、親の憂愁等お構い無しに自分達のきらめく時間を楽しんでいた。そして、幼いながら、恋に心を奪われる者もいた。恋愛における悲しさ、「想う人に想われず、想わぬ人に想われる」人生に定められた苦しみ…。

パリに残った妻達は気ままな息抜きを楽しんでいた。クレールは情事を掛け持ちし、キキは不倫に身を焦がし、夫に捨てられたオデットは孤独のあまり様々な事件を引き起こす。トカニエの妻マリー=フランソワーズは、夫と若い女性秘書との仲(全くの誤解)を嫉妬した挙げ句、とうとう得体の知れない魔術で夫に手を出す女に呪いをかける始末。そんな友人達を横目にひたすら平穏なひと月を決め込んだドラはつぶやく。今年は数人のボーイフレンドで我慢する事にしたの…。 イル・ド・レではけたたましい騒ぎがいくつか起こっては収束をくり返し、そして、秘密の恋も生まれていた。ジャックの美しい妻に心奪われるマルタンの息子クレマン…。

やがて、バカンスも終わりを迎え、夫達や子供達を迎えに行くために妻達もイル・ド・レにやって来た。素晴らしいバカンスの時は過ぎ、人々は秋の訪れを感じ始める。枯れ葉舞う平凡なパリの日々を思い出す。そして、儚く消え去った黄昏の様な夏の記憶を抱えて、それぞれの人生に戻って行く…。

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